真空管アンプキットの組み立て
ートライオード(Triode)TRK-3488 ー
(以下、3月に体験したことの記事です)
4,5年前から我が家の古いレコードを聞き直し始めると共に、ピュアーオーディオ熱に再び火がともり始めました。 保管していた山水のレコードプレーヤにヤフオクでDENONのプレーヤを買い増しし、これも長らく保管していたSHURE V-15 Type IIIとDENON MC DL-103 を探し出して取り付けて聴いています。SHUREの方はカンチレバーのゴム周りの劣化かどうも音がおかしいので、日本精機宝石工業株式会社(JICO)から互換品の針を購入しました。 レコードを聴いていると、どうしてこの機械的なメカニズムでこんなきれいな音が出るのだろうかと、元技術屋の心が揺さぶられます。そんな風に再燃したピューア―オーディオ熱ですが、昨今の高級機志向には財政的についていけず、楽しみ方に迷いが生じ始めたころに、真空管アンプの世界が盛り上がっていることを知りました。この世界も上を見たらきりがないのですが、幸いキットという文化があり、これなら仲間入りできるかと思って手を染めてしまいました。
ということで、入手たのは、トライオード社のTRK-3488 というプリメインアンプキットです。キットと言ってもスイッチやボリューム、入出力関係はほとんど取り付けと、配線完成済みで、残されているのはプリント基板への部品の装着と電源および入出力信号線と基盤との接続だけですので、大人のプラモデル感覚で取り組めます。とは言え完成品よりはかなり安いので助かります。若いころにアマチュア無線を楽しんでいたので、半田付けは苦になりません。 では早速、開封の儀。 梱包は2重の段ボールで、その中が分厚い発泡系の緩衝材ブロックで覆われていて大変しっかりしています。緩衝材ブロックは上下に分かれるのですが、これは基盤に半田付けをするときに台として大変役立ちます。すでに真空管がささった状態です。作業中は真空管を外します。
中はこんな感じです。
装着する部品は、抵抗、コンデンサ、ダイオード、コネクターです。完成品はおそらくキットよりもグレードの高い部品を使っているのだろうと思い、市販されているアップグレード部品(抵抗とカップリングコンデンサ)を購入し、キットに入っている部品は使いません。右側の写真がアップグレード普請です。
各部品は丁寧に半田付けしていきます。半田付けする際にはプリント基板を本体に仮止めし、梱包に使われていた発泡系の緩衝材を下にして本体をさかさまに入れて置くと安定して作業ができます。ネット上のキット製作記では4時間で完成とか半日でできたとか武勇伝が載っていますが、同じお金を出して買ったキットなのでゆっくり楽しまなければもったいないですよね。私は一週間かけて完成させました(本当は不器用なだけ?)。
部品を熱で痛めないために半田付けの際には基盤の表と裏からアルミの放熱クリップで挟んでおきます。 また、通常の音楽鑑賞の使用中でも熱を持つので、部品と基盤の間は紙一枚分でも隙間を開けておきます。 コテが熱いので、友人からもらった〇式戦闘機型の扇風機で涼みながらの作業です。
無事全部品をプリント基板に装着しました。一応テスターで要所要所を確認します。カップリングコンデンサーは、これによる音の違いを確認したかったので、先ずはキット内包のものを装着し、アップグレード部品内の高級オイルコンデンサには後日取り換えることとしました。
完成した基盤を本体に固定し直し、電源および入出力信号線等と接続します。この配線はほとんどターミナル化されているので簡単です。白くヒョロヒョロと伸びているのはNFB(負帰還)の配線です、このキットでは使用時にスイッチでNFBのON/Offが切り替えできるようになっています。しっかり底蓋を取り付けて、ひっくり返し、真空管を挿して完成です。
さて電源ONと動作確認の儀です。 数十年ぶりの経験で、大変ドキドキしましたが、焦る心を抑えられず、真夜中の工房で電源スイッチを入れました。LEDランプが点灯し、しばらくそのままにしておいても何処からも煙が上がりません。
よし、第一関門突破ということで、次は、スピーカとCDプレーヤをつないで音の確認です。最初はCDをかけない状態でボリュームを上げていきます。私が真空管アンプや真空管ラジオに持っているイメージは、何と言ってもあの“ブーン”といういわゆるハムの音です。ところが、ボリュームを回していってもウンともスンとも言いません。恐々3時の位置まで回しても静かなままです。やっぱりどこか間違えたか、半田ミスをしたのかなぁとあきらめてボリュームを戻しました。
一応CDをかけてから再びボリュームを回していきます。ガーン、いきなり、アマンダ・マックブルームのちょっとドスの効いた美声が、真夜中の工房の静寂を打ち破りました。ワォっという感じで、それから3時間、アマンダの次にはアートペッパーのサクソフォン、お気に入りのパティ・ペイジ、石原裕次郎、倍賞千恵子、谷村新司(この辺りはUSBから)、最後はビックバンド・ジャズの数々と聞き続け、夜はすっかり明けて、朝日が工房に差し込み始めました。 すっごく嬉しかったです。TRK-3488の音は、期待以上で、特に中音量から小音量で聴いているときのクオリティの高さは何か安心させるものがあります。真空管の音は温かみがあって柔らかいという評論もありますが、ちょっとウソだなぁと思います。帯域は十分に広く、アマンダの美声の後ろで張り裂ける音も、アートペッパーのサクソフォンの脇から聞こえるドラムシンバルやバスの音も、パティ・ペイジの懐かしいかすれ声も、どれも工房で使っている5万円クラスのトランジスタアンプよりも豊かな音に聞こえます。キットから作ったアンプということで身びいき半分かも知れませんが、とにかく癖になる音です。堂々と我が家のメインアンプとなりました。