バンドソーボックス“BONSAI 盆栽Ⅱ 懸崖に挑戦”
その1 構想編
昨年9月に盆栽をテーマしたバンドソーボックスを作りました。ちょっと大げさですがサブタイトルにー日本の伝統的な園芸の木工表現に挑戦するーと付けてみました。形になるか不安を抱えながら取り組んだのですがそれなりに上手く出来たと自画自賛というところです。と言うわけで調子にのって第2弾に着手することにしました。
私には絵心が無いので、前回の作品を作るとき、その原画のデッサンは妻に頼んで書いてもらいました。彼女の好みは、崖の上から枝が垂れた姿の松だったのですが、作る側からすると最初からそれは難しいなと思い、オーソドックスな立ち姿にしてもらいました。というわけで、第2弾はそれに挑戦です。
盆栽を趣味にしているわけではないので全くのにわか勉強ですが、盆栽の樹形にはいくつかのパターンがあるようです。いろいろな説明があるのですが一番理解しやすかったのは、風になびいた姿での樹形の分類でした。“キミのミニ盆栽びより”というサイトに下記の図があります。
松が風になびく程度によって分類されています。前回作ったデザインはこの中の風の影響を受けていない“直幹”に近いのですが幹が曲がっているので”模様木”という言い方で分類されている場合もあるようです。一般的な盆栽の姿かと思います。今回第2弾で挑戦するのは風になびいて枝が垂れ下がっている“懸崖(けんがい)”です。例えばこんな姿でしょう。崖っぷちに枝を下して逞しく生息しているイメージがあります。
盆栽主義(四国新聞の連載記事)で崖っぷちの老樹として次の写真が紹介されています。
逞しい姿が伝わってきますね。
観葉植物通販のKIDORI(キドリ)にはこんなのもあります。
前回の製作経験から、デザイン上の留意点がいくつか挙げられます。
(1) A4サイズの中でバランスのよい形
(2) 樹形の自然な表現と木工作品としての強度の両立
(3) バンドソーの切り口が確保できること
(4) スピンドルサンダーを効率良く使えるような側面形状
(5) 引出しの数を5つ以上確保する
特に(2)と(3)の制約は頭を悩まします。幹や枝葉の要素を、絵的な出来栄えだけを考えて描くとどこかが部分的に細くなったり空間が開きすぎたりして、小物入れとしての強度が保てなくなってしまうことがあります。木工作品ですから経年変化で折れてしまうこともあります。また引き出しの部分はもちろんのこと、幹や枝の形によってできる空洞部分を切り出すためのバンドソーの切り口と導線を慎重に考えておかないと、作品の強度が落ちたり、作品の一部が分断されてバラバラになったりします。何度も紙の上で切り口の導線を描いて要素の連結を確認するシミュレーションを繰り返します。それでもどうしても強度的に不安な部分が生じてしまうので、裏板の面から切り口の隙間に接着剤(ボンド)を入れて要素同士を接着して補強する手段をとりました。今回のデザインでは3か所補強することになりました。
(4)は、サンディングに手間を惜しまず努力すれば複雑な側面にも対応できるのですが、作業が大変です。スピンドルサンダーの制作効率に及ぼす威力は絶大で、年寄りには心強い味方です。かつ、今までの経験から、あまり複雑な形状の側面にしない方が結果的に作品の仕上がりが端正になるような気がしています。
(5)は葉の茂った部分の塊の数で決まりますが今回は5か所切り出せます。もう一か所欲張って、鉢の部分にも引き出しを設けることにしました。デザイン性を考えて正面からは見えないように側面から出し入れする形にしてみました。おもて面の引き出しとは直角の方向への引き出しになるので、工作の手順に工夫が必要になります。
妻に何度かダメ出しをされながらどうにか次のようなデザインのテンプレートが完成しました。
でも、ここでもう一つ問題が残っています。前回の作品は、表面に2段の段差を付けて、鉢と幹と葉の茂みの位置に関して正面からの立体感を出しましたが、今回は葉の茂み塊の数が多いので、段差を3段にして、より立体感が出すようにしました。と言うことは、表面のから切り取る板が3枚になります。前回の2枚でも結構作業が複雑だったのですが、引き出しやその前板、葉の茂みの塊の輪郭部分、そして幹及び幹から延びる枝の立体的なふくらみの部分などを、どの面の板から何を切り出すのか、それによって型紙を張り直しが必要になる面がでてきます。またバンドソーのブレードは曲線切りでは3mm~6mm巾を、板の挽き割りでは10mm巾のものを使っていますが、手順をよく考えないと何度もブレードの交換をすることになります。ブレードの交換は慣れれば大したことはないのですが、その都度ドリフトやガイドローラの調整が必要になるので、少しでも少なくしたい工程です。前回の段差2段の場合でも複雑で何度も不必要なブレード交換をして疲れました。今回はその轍を踏まないように、しっかりと手順書を書きました。
歳をとると集中力が低下しているのに気がせいてしまいます。行き当たりばったりで進めていると、するべき作業をすっ飛ばして先に進み、結果的にあと戻りや手直しが多くなってしまいます。このような手順書を作っておけば不用意な手戻りも少なくなると思います。ただし、手順書に誤りがなければ・・・です。
なんて殊勝なことを考えているのですが、工房には、小型テレビ、ラジオ(真空管ラジオが3台)そしてネットワークオーディオの端末がそろっているので、ついナガラ作業になってしまい集中力を欠きます。比較的に安全な工具を使っていますが、それでも時々悲鳴を上げて指先を切ってバンドエイドのお世話になります。手順書をしっかりと確認しながら落ち着いて、安全に木工作を楽しもうと考えている今日この頃です。
追記: 上記のテンプレートおよび手順書は、作品が完成した時の報告(投稿)でPdfで提供できるリンクを用意する予定です。