1アマに挑戦しました!
―アマチュア無線―
チャレンジまでの経緯
昨年の夏にアマチュア無線の再開をこのブログで紹介しました。加齢と共に襲い来る「怪獣」に抗うためにと大見得を切って再開しました。半世紀以上昔の高校1年の時に友人と一緒に講習会を受けて電話級、現在の4アマ(第4級アマチュア無線技士)の資格を取得して始めた趣味です。3年間ほどは楽しく、それこそウキウキ、ワクワクしながら続けていましたが、アマチュア無線によくあるTVI(テレビに妨害電波を出してしまうこと)でご近所に迷惑をかけ、その対策に悩まされました。当時のテレビはもちろんアナログでしたし、作りも上等とは言えないものが多かったので、必ずしもこちら(送信側)だけの原因ではなかったろうと思いますが、まだ知識も浅く経済力もなく、なにしろ気の弱かった少年(今でも?)は、対策を十分にできないままにフェードアウトしてしまいました。その後、資格のアップはしていましたが中途半端に終わっていました。
結婚して間もなく、妻にも無理やり免許を取らせて(当時はまだ従順な妻でしたね、文句を言わずに従ってくれました)、少し遊んだ時代もありましたが、仕事も忙しくなってきて楽しい趣味からも遠のいてしまいました。
時間ができたらいつか再開したいと思っていた趣味の一つです。でも、退職した先輩方から良く聞かされていたように、いざ時間ができると、加齢と共に襲い来る例の「怪獣」が我が身にも襲いかかってきているのを実感するようになりました、
そんな怪獣に抗う意味も込めで昨年の夏に再開してしばらくすると、どうせなら心残りのないように1アマ(第一級アマチュア無線技士)まで取得しておこうと思うようになりました。
今までチャレンジしなかった理由は大きく3つあります。
1.学生時代に電気工学系の教育を受けていたので、1アマの資格は取る気になればいつでも取れると甘くみていました(上から目線ってヤツです)。
2.試験にモールス電信の実技能力(欧文和文の受信実技)が含まれていて、私には無理だとあきらめていました。
3.実のところアマチュア無線の趣味を楽しむために1アマの必要性はそれほど高くなく、忙しい中でわざわざ取り組まなくてもよいと考えていました。
ところが、近年、上記の2.について状況に変化がありました。平成23年12月期から、制度改正があり第一級・第二級アマチュア無線技士の国家試験からも電気通信術の実技試験(音響受信)が廃止されました。
「第一級及び第二級アマチュア無線技士の国家試験の科目から、モールス電信の実技試験を廃止し、試験科目の「法規」においてモールス符号の理解度を確認する」
という形への変更です。この背景は、以下の通りです。
通信衛星の登場によって短波によるモールス通信の利用環境が縮小し、短波帯でのモールス通信が最後まで使われていた海洋航行の船舶においても、2000年を待たずにGMDDS (Global Maritime Distress and Safety System)世界海洋遭難安全システムに全面的に移行しました。まだ、一部の漁業無線や自衛隊の一部の通信では使われているようですが、一般的なプロの世界でのモールス通信の役割は終了しました。
しかし、アマチュア無線では小さな電力で世界中と通信ができるというモールス通信のメリットは大きく、マニアックな習得技術としての魅力も加わって、まだまだ多くの方が楽しんでおられるようです。
ともあれ、2.の障壁が無くなったので、私にとっては資格アップへのハードルが一気に下がったことになります。ところが、勉強を初めて見ると、甘く見ていた1.がかなりの曲者でした。
試験勉強の始まり
何はともあれ、どんな内容の試験なのかなぁと去年の暮から調査を開始しました。無線工学は「電気物理」、「電子回路」と言った電子工学の基礎から、「送受信機」や「電波伝搬」、「測定」に至るまで盛り沢山です。法規は「電波法」から「運用法」、そして「国際法規」まで含まれています。「運用法」の中には電信、すなをわちモールス通信が含まれていて、モールス符号の理解や略符号および通信手順などの知識が問われます。モールス通信関係は符号も一通り覚えていたので、実技さえなければどうにかなりそうです。
まず、次の写真の教本を入手して、一通りすべての問題に取り組んでみました。
これで、試験範囲や問題形式の概要がわかったところで基本方針を立てました。
『法規』
- 基本的には既出問題のみを暗記する。あまり早くから覚えても忘れてしまうのでスケジュールの後半で集中的に頑張る。
- 法規に含まれるモールス通信は、今後も趣味として取り組みたいので、日々少しづつ反復して記憶をよみがえらせる。具体的には就寝時に布団の中で、ツートツート、ツーツートツー、・・・と呪文のように唱えながら寝落ちする。
『無線工学』
- この際、まじめに勉強し直すこととして、「電気物理」、「電子回路」の理論を基礎から理解し、必要な公式や無線機器特有の知識を一通り覚えてから、後半は過去問を中心に網羅的に勉強する。
『共通』
- 法規、無線工学 共に、山を張らずに、対象範囲を全部カバーする。後半は過去問の攻略に専念する。
最初に示した参考書は問題数も多くて試験の傾向を掴むのには大変良いのですが、基礎的な説明や解説がやや少なめです。理解を深めるために、次の参考書を追加入手しました。これは、問題と共に、理論や原理の説明がほどよく載っていて且つ問題の解法が丁寧に記載されています。
これらに加えて、既出問題の数を増やすために次の参考書も購入しました。これには同類の問題が整理されていてどのような頻度で出されているのかも記述があるので重点化するときにも役立ちます。
そして、最終的には大量の過去問を本番と同じ形で解いておくために、主に以下のサイトにお世話になりました。
法規も無線工学も過去3回分の問題と解答が載せられている
過去問が問題種類ごとに整理されて,回答及び解法が示されている。直近の問題も迅速に載せられている。
平成11年度以降の無線工学の試験問題、解答および説明が載せられている。問題文類別の整理もされている。
法規と無線工学の試験問題、解答、および解説が過去10年分整理されているので、必要な年数分だけダウンロードしておくと便利。
さらにYouTubeではatug333さんの1アマ試験問題紹介と解法の動画が大変役立ちました。ありがとうございました。
過去問は、法規3年分、無線工学5年分を上記 めざせ!! 上級ハム のサイトからダウンロードさせていただきました。年3回の試験ですが、平成20年4月期の試験は中止になっているので、法規で計8回分、無線工学で計14回分です。試験日までの最後の一ヶ月間はこの過去問を徹底的におさらいすることとし、それまでは上記参考書で一つずつ理解して分野ごとに苦手なものをつぶしていくように取り組むこととしました。
思わぬ障壁は四則演算
記憶力が減退していることは十分承知の助でした。これは同じ問題を何度も繰り返して解いてみるしかありません。特に、法規はそうなります。おそらく講習会のようなところでお世話になれば、法規に関しても、なにか一貫した考え方を教えいただいて効率よく覚えることができるのだろうと思いますが、今回はがむしゃらに暗記することにしました。
記憶力のことは覚悟していたのですが、思わぬ障壁はもっと深刻でした。数値計算です。1アマ試験の無線工学では、数値計算を伴う問題が沢山出ます。対数を用いたdBの演算とかコイルやコンデンサの回路分析を複素数(いわゆるjてやつです)を用いて行う計算は必須です。これらは若い時に一通り勉強したことのある分野なので、難しいとは言えおさらいすればばどうにかなります。まいったのは単純な四則演算です。πや平方根,三角関数などの含まれた単純ですがめんどうな計算です。つまり3.14や1.42、1.73などの具体的な数値を含んだ四則演算です。試験では電卓や計算尺は使えません。三桁の掛け算や割り算、分数の通分など、単純な計算ですから、中学生でもできて当たり前なのですが、以前のように素早くできなくなっていることに気づきました。つまらない間違えを何度も繰り返してします。そう言えば、電卓ばかり使っていて、紙と鉛筆での計算なんて、ここ何十年もほとんどしていなったのですね。加えて、加齢に伴う短気と集中力欠如が加わって、早とちり、暗算間違えなどが頻発します。簡単な式の変形や計算でも、手を抜かず、時間をかけて手順を踏んで進めていかないとどこかで間違えてしまいます。我ながら涙が出るような間違えを平気にしてしまいます。
結果的にこれらの計算能力は今回の試験勉強を経験することでずいぶんと回復したと思います。歳を取れば当たり前なのですが、自分が不注意をすることを自覚して、何事にも丁寧に処することの重要さ改めて悟りました。
妻の激励
妻には内緒で始めた試験勉強ですが、いつもはグータラしている私が毎朝早くから何やら参考書を広げてうなっているので、すぐにバレました。実は結婚当初、妻にも電話級の資格を取らせて、二人で遊んでいました。その時の試験を思い出してかどうか ”とにかく問題を全部覚えちゃえばいいんでしょう。頑張んなさいっ!” と叱咤激励。私が、さっきの四則演算で自信を無くして弱音を吐くと ”4月に落ちたら8月があるんでしょう。諦めんじゃないのよ” と、プレッシャーをかけてきます。
正月の挨拶で、以前の職場の同僚にも宣言してしまったので、そう簡単にギブアップをできず、背後にいろいろなプレッシャー感じながら勉強を続けました。
羽生結弦選手の呟きと玉川徹氏のフォロー
2月のある日、冬季オリンピックで羽生結弦選手が4回転アクセルを成功できず、試合後のインタビューで呟きました。”努力って報われないだなぁ” と小さな声で、彼にはめずらしく弱音を吐いていました。我が身と比べるのもチャンチャラおかしいのですが、私も自信を無くしていたのでこれを聞いてさらに落ち込みました。「やっぱりダメかも知れないなぁ」と。
翌朝のテレ朝モーニングショーで羽生選手のこの呟きが紹介されていました。これに対するコメンテータの玉川徹氏のフォローに救われました。正確な言い回しは忘れましたが彼はこんな感じのことを言ったのです。「ある人の言ったことを思いでしますよ。“確かに、人生では努力が報われるとは約束されていないでしょう。でも、努力が報われなくても必ず進歩はしているんですよ”と」
うーん、イイこと言うなぁと思いました。定年後の高齢者が進歩することが約束されているのなら諦めずに頑張ろうと、仕切り直して頑張りことにしました。
あと1ヶ月、過去問に突入
3月に入り、過去問に集中することになりました。
参考書でやった既出問題が沢山出てきて、最初から合格点が取れそうな過去問もいくつかありました。でも、過去問ですから、満点が取れるように、繰り返しトライしなければなりません。この国家試験の合格ラインは正答70%です(150点満点で105点)。私の仮説ですが、見たことのない新しい問題が20%出されて、その他が既出問題かそのアレンジ問題だとすると、過去問を満点レベルまで仕上げておけば、たとえ新しい問題を全て間違えたとしても、どうにか合格できるのではないかと、小賢しい計算をしました。
問題形式は、設問の答えを5者択一で答えるA問題25題(法規では24題)と、5つの文章の正誤の見極め、あるいは、文章中の5か所の語句の穴埋め(選択肢から選ぶ)を行うB問題5題(法規では6題)です。B問題ではほとんど計算を必要としない問題ばかりですので、作戦としてB問題から取りこととしました。最初からA問題の面倒な計算問題にひっかかり頭が混乱するのを避けるためです。
ともあれ、何度も何度も時間のある限り過去問に取り組み、どうにか法規3年分、無線工学5年分をマスターしました。実際に過去問に取り組むと、時間的な制約もあり、例の四則演算ミスがまた多発します。手計算は、時間に追われている時ほど、落ち着いて丁寧に進めなければならないことを再認識しました。正に、“急がば回れ”ですね。
ついに試験当日(4月9日土曜日)
受験票で割り当てられた試験会場(晴海の日本無線協会試験センター)向かいました。
前夜は早くに就寝したのですが興奮していたのか全く睡眠が取れませんでした。ひたすら布団の中で目をつぶっていました。われながら情けないことです。おまけに、神経痛(帯状疱疹後神経痛)を抑えるための鎮痛剤を多めに服用したので、ちょとふらついていました。
会場には余裕を持って30分以上前に到着しました。めったに経験しない国家試験ですが、係員の方々は穏やかに接してくれて、落ち着いて試験に臨むことができました。
受験生には息子よりも若い人たちが多く、私のような年齢の爺さんはほとんどいませんでした。それだけに、なんだか楽しい経験でした。
法規はほとんど既出問題あるいはそのアレンジ問題なので正に記憶力との勝負でした。無線工学は、ざーっと眺めたところ7割ぐらいが既出問題あるいはそのアレンジ問題で、見たことのない問題は2割ぐらいでした。ヨーシ、これならどうにかなるぞ、と気を引き締めて取り組みました。本番では2時間30分という時間は十分に長く、見直しもできましたが、なにしろ寝不足と鎮痛剤のおかげで、終わりの方は目を伏せて寝てしまうような状況でした。
ともあれ、無事受験して家路に着きました。
正答発表と自己採点、そして合否の通知
4月12日に日本無線協会のホームページに正答がアップされました。自分で見ると気がせいてしまうので、正当の用紙を妻に持たせて、私が自分がメモしてきた答えの番号を読み上げて、採点しました。読み上げながら時々盗み見る妻の顔色がやけに冷静でした。これをどう理解したらよいのかわからないままに、採点は終了し、ジャーン、法規B問題を一か所間違えて149点、無線工学A問題を3題間違えて135点です と言われてホッとしました。合格ラインは105点です。取りあえず自己採点では合格となりました。
でもまだ残る不安があります。解答をマークシートへ移す(問題の番号を塗りつぶす)時に行を間違えたりしていないかです。なにしろ、寝不足と薬でふらふらしていたので・・・。
一抹の不安を残しながら、合否通知の日を迎えました。当日4月26日は私の大腸カメラ検診の日に当たっていました。朝から下剤と水を大量に飲まされて、ヘトヘトになりましたが、検査結果は特に問題なく一安心して、家に帰り、メールを確認しました。
通知にはめでたく合格の文字があり、私の70代での1アマ挑戦は成就しました。
アマチュア無線の世界は創意工夫とアクテビティー、実践の世界ですから、私のこの資格は大型トラックのペーパードライバーのようなもので、自己満足ですね。