ボックス・エンタングルメントの構想
― 量子もつれを木工で実現?―
YouTubeの聞(観)きかじりですが、最近、「量子もつれ(Quantum Entanglement)」という言葉が妙に気になっています。その存在を証明した学者が2022年のノーベル賞を受賞しています。量子力学の世界では、二つの量子が特殊な関係になると、遠く離れていても、それぞれを完全に独立したものとして扱うことができず、二つを合わせた一つの状態として考えなければならないそうです。一方の量子の状態が観測されて確定すると他方の量子の状態も確定するということです。離れたもう一方との間に、古典的な物理学の考え方だけでは説明できない強い相関が現れます。それも、宇宙規模で離れていてもというからビックリです。
アインシュタインがこれを「不気味な遠隔作用」と呼んだことでも有名です。
もちろん、私は量子力学の研究者ではありません。木工を楽しんでいるだけの爺さんDIYerですから、これ以上先へ深入りすると、たぶん戻ってこられなくなります(笑)。
ただ、「離れている二つのものなのに、どういうわけか一つの関係として結びついている」というところが面白いと思いました。
そこで閃いてしまいました!
これ、木工で作れないだろうか?
「BOX ENTANGLEMENT(ボックス・エンタングルメント)」なんてバズるかも。
というわけで考えたのが、この企画です。
原理を説明します。図①~③
原理はいたって単純です。

先ず木製の箱を二つ作ります。左をボックスA、右をボックスBとします。
ボックスAには上下二つの引き出し a1、a2 があります。ボックスBにも同じように b1、b2 があります。
一見すれば、ただの二つの小さな引き出し箱です。ところが、この二つの箱は紐でつながっています。
初期状態(図①)では、内部に仕込んだ4本の紐には十分なたるみがあります。したがって、この状態ならa1、a2、b1、b2のどの引き出しでも引くことができます。
紐の繋ぎ関係は、赤:a1―b1、黄:a2―b2、緑:a1―a2、青:b1―b2です。緑と青の紐は途中で固定されているガイドピンでUターンします。初期状態では、引き出しを引くための余裕(たるみ)分として、大きく周っています。
図② 引き出しa1を引いた状態
ここで、ボックスAの上側の引き出しa1を大きく引いてみます。すると状況が変わります。a1につながっている赤い紐と緑の紐がピンと張ります。赤い紐が張るので、離れたボックスBのb1は引き出せなくなります。同時に緑の紐もいっぱいに張るので、ボックスAのa2も引き出せなくなります。
ところが黄色と青の紐はたるんだままです。その結果、引き出せる可能性はa2 → NG、b1 → NG、b2 → OK となります。つまり、Aの引き出しa1を選んだ瞬間に、離れたBでは、b2しか選べなくなる、という仕掛けです。
なんとなく「エンタングルメント」っぽくなってきたではありませんか。
ではa2を選んだら? 図③
今度は逆に、最初の状態からa2を引いてみます。この場合には、黄色の紐と緑の紐が張ります。
すると、引き出せる可能性はa1 → NG、b1 → OK、b2 → NG となります。今度は離れたボックスBでは、b1だけを引き出すことができます。
つまり、a1を選ぶ → b2だけが選べる、a2を選ぶ → b1だけが選べる、という関係になります。同様に、b1を選ぶ → a2だけが選べる、b2を選ぶ →a1だけが選べる、という関係になります。
もちろんこの原理は本物の量子もつれのものとはまったく違います。こちらのタネはただの紐です。それもどっぷり古典力学的な紐(多分テグスのような紐)です(笑)。
しかし、外から見ると二つの箱は離れているのに、片方で行った選択によって、もう片方で可能な選択が決まってしまう。そこを量子もつれのジョークとして表現してみよう、というわけです。
作品完成イメージ
こんな感じです。

紐は見せないことにしました。最初は、二つのボックスの間に4本の色の違う紐を見せても面白いかな、と考えていました。しかし、それでは仕掛けが丸見えです。
前から見れば、二つの箱の間には一枚の飾り板があるだけです。そして、この板そのものも作品の一部にします。森の風景を描いてもいいでしょう。あるいは、この作品の名前が想起できるような星空や宇宙をイメージした絵も面白そうです。
イメージ図をChatGPTに頼んだら、上記のこんな立派な作品イメージを作ってくれましたが、本当に私がここまで立派に作れるかどうかは、別の問題ですね(笑)。
完成した実物とこのイメージ図を並べるのが、今から少々怖くもあります。
箱そのものは、できれば私の好きなバンドソーボックスの作り方を利用したいと思っています。複雑な電子回路もモーターも使いません。基本的には、木の箱と引き出しと紐。それだけです。片方の引き出しを引くと紐が張り、別の引き出しの動きを止める。仕組みそのものは実に原始的です。でも、その単純な仕掛けを外から隠してしまえば、「どうして離れた箱の引き出しが動かなくなるんだ?」と、ちょっと不思議に見えれば成功です。
さて、本当に作れるでしょうか
ここまでが現在の構想です。頭の中では、ちゃんと動いています。図の中でも、ちゃんと動いています。
問題は、木で作った実物も、ちゃんと動いてくれるかどうかです。工作を始めると、「紐が引っ掛かる」「たるみの調整が難しい」「摩擦が大きい」「引き出しが途中で止まる」など、図面の世界には存在しない難問たちが、ぞろぞろ登場してくることでしょう。それを解決しながら作るのが木工の面白いところです。
今、取り掛かっている作品が終わったら、実際に作ってみようと思っています。
果たして、「ボックス・エンタングルメント」は無事に完成するでしょうか。それとも途中で、「ボックス・コンフュージョン(箱の混乱)」になってしまうでしょうか。
続きは、実際に木を切り始めてからのお楽しみです。
